相続・税制

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建て貸しか、定期借地か——地主の答えは「納税資金」で決まる

建物を建てて貸す未来と、土地のまま貸す未来が分かれる一枚の土地

この記事で分かること:介護施設やクリニックの土地活用には、オーナーが建物を建てて一棟貸しする「建て貸し方式」と、土地だけを貸す「事業用定期借地方式」があります。同じ土地のモデル試算で相続税と手残りを比べると、答えは方式の優劣ではなく、納税資金が足りているかどうかで決まります。その理由と、それぞれの落とし穴、撤退時の設計までをお伝えします。

私自身、「借入は残したくない」と思っていました

私は親から不動産を引き継いだ、地主側の人間です。土地活用の提案を受けたとき、最初に感じたのは「1億を超える借入を、子どもに残していいのか」という抵抗感でした。この感覚は、いま提案をする側に回っても、相談に来られる地主の方のほぼ全員が口にされます。

その後、税理士法人で相続案件の決算を読み、いまは介護・医療・障害福祉の事業者として、地主の方から土地を借りる側にもいます。両方の景色を見て分かったのは、「借入を残す」ことと「納税で土地を切り売りする」ことのどちらが重い負債か、比べたうえで決めている地主は驚くほど少ないという事実です。この記事は、その比較をかつての自分に見せたくて書いています。

二つの方式は何が違うのか

まず整理します。

建て貸し方式は、オーナーが借入をして建物を建て、運営事業者に一棟貸しする形です。賃料は土地と建物を合わせた金額になり、建築借入の返済はこの賃料から行います。相続税評価では、建物が貸家評価、土地が貸家建付地評価となり、借入は債務として差し引かれます。

事業用定期借地方式は、土地だけを事業者に貸し、建物は事業者が自分で建てる形です。オーナーの投資はゼロで、収入は地代のみ。相続税評価では、土地が「底地」として一定の減額を受けますが、建物評価も債務控除もありません。

どちらが優れているという話ではありません。二つの方式の位置づけと施設種別ごとの全体像は介護施設の土地活用 完全ガイドにまとめていますので、ここでは「同じ土地でどう違うか」に絞ります。

同じ土地で、相続税と手残りはこう変わる

実際の案件で組んだ試算を、個人が特定されないよう数字を丸めてモデル化したものが次の図です。前提は、土地の相続税評価約8,000万円、総財産約4億円、相続人2名、金融資産約1.1億円。この土地に障害者グループホーム(22室)を建て貸しした場合と、事業者に定期借地した場合を、何もしない場合と並べています。

土地評価約8,000万円・総財産約4億円のモデルで、現状のまま・建て貸し・定期借地の3つを比較した図。相続税の総額は現状約9,300万円、建て貸し約4,500万円、定期借地約8,600万円。納税後に残る金融資産は現状約2,200万円、建て貸し約7,000万円、定期借地約2,800万円。建て貸しは借入1.5億円を伴うが土地はすべて残り、定期借地は借入なしだが契約期間中は土地を動かせない。
図:同じ土地で、方式によって相続税と手残りはどう変わるか(モデル試算)

見ていただきたいのは、相続税の総額より納税後に残る金融資産です。

  • A 現状のまま:相続税約9,300万円に対して金融資産は約1.1億円。納税後の手残りは約2,200万円で、既存の貸家の修繕や生活予備費を考えると、対象地を売って納税資金に充てる可能性が高い状態です
  • C 建て貸し:借入1.5億円で建てると相続税は約4,500万円まで下がり、納税後の手残りは約7,000万円。借入は残りますが、返済は年約1,190万円の賃料から行い、返済後も年200万円強が手元に残る計算です
  • E 定期借地:相続税は約8,600万円。現状との差は700万円程度で、税の面ではほとんど変わりません。借入はなく、地代から固定資産税等を引いて年190万円程度の収入になります

つまり、定期借地は「借入を避ける」方式であって、「相続税を減らす」方式ではない。ここを取り違えると、判断を誤ります。

※上記はモデル試算です。借地権割合60%・木造建物・金利2%等の前提による概算であり、個別の税額は税理士による計算が必要です。

分かれ目は「納税資金が足りているか」

では、どちらを選ぶべきか。私の判断基準は一つです。

建て貸しか定期借地かを判断するフロー図。まず相続税額と納税資金を試算し、納税資金が足りなければ建て貸し方式(借入で評価を圧縮し、賃料から返済。財務の確かな事業者と違約金条項が条件)、足りていれば定期借地方式も選択肢(借入なし、地代は更地価格の年2〜3%、相続税はほぼ変わらない)。どちらでも事業者の財務確認・撤退条項の書面確認・「建てない」選択肢の検討が共通。
図:分かれ目は「納税資金が足りているか」

相続税の圧縮効果を重視するなら、建て貸しの方が明確に有利です。 借入で建物を建てることが評価圧縮の本体だからで、定期借地では底地の減額しか効きません。土地を残したまま納税資金を確保できる可能性が最も高いのも、建て貸しです。

一方で、「承継のことを考えると借入をしたくない」という希望も、私は十分に分かります。そして納税資金がすでに確保できている方であれば、無理に建てる必要はありません。負債を引き継がせたくないという価値観は、それ自体が尊重されるべき判断です。

建て貸しを推した私が、定期借地を勧めた実例

図解1のモデルになった案件では、私は当初、建て貸しを推しました。税額が半減し、土地も残る。数字だけ見れば迷う余地はなかったからです。

しかし、地主の方の借入に対する抵抗感が、想像以上に強かった。そして納税資金についても、既存の資産と生前の対策を組み合わせれば確保できる見込みがありました。であれば、数字が有利だからといって押し切るより、定期借地で無理のない形にした方がいい——そう判断を変えました。

これが「納税資金が分かれ目」ということの実際です。納税資金が足りなければ、借入への抵抗感より土地を失うリスクの方が重い。足りているなら、抵抗感を優先していい。 方式の優劣ではなく、その方の財産の状態が答えを決めます。

オーナーが誤解しがちな4つのこと

相談の場で繰り返し出会う誤解を、実際のところとあわせてお伝えします。

誤解①「借入は、子どもに残す負の遺産になる」 借入は確かに残ります。しかし、きちんとした事業者と長期の契約を結び、賃料から返済が無理なくできる企画であれば、それは「返済原資のついた負債」です。逆に、納税資金が足りずに土地を切り売りすることは、先祖から受け継いだ資産を減らす、取り返しのつかない形の損失です。どちらが子どもにとって重いか——私は後者だと考えています。

誤解②「定期借地でも、相続税はそれなりに減る」 前述の通り、モデル試算では現状との差は700万円程度です。底地の減額は残存期間などで変わりますが、建て貸しの圧縮幅とは桁が違います。定期借地を選ぶなら、「税を減らすため」ではなく「借入をしないため」と、目的をはっきりさせてください。

誤解③「土地を売って納税資金を作るのが、いちばん安全」 同じモデルで、対象地を生前に売却した場合も試算しています。売却手取りは現金として財産に加わるため、相続税はほとんど変わりません。手残りは増えますが、土地は失われ、収入も生まれない。「安全」に見えて、実は税は減らず資産だけ減る選択です。

誤解④「建て貸しで事業者が撤退したら、それで終わり」 これは次の項でお話ししますが、実務では逆です。撤退後に次の事業者が見つかることがほとんどで、その理由には構造があります。

建て貸しで最も重要な設計——撤退時の違約金と、次の事業者

建て貸しを選ぶなら、契約の中で私が最も重視するのは撤退時の違約金条項です。

一般的な設計は、違約金を当初の建築費相当額とし、30年かけて逓減させてゼロに近づけるというものです。事業者が早期に撤退するほど違約金が大きく、借入の残債をほぼ打ち消す。契約期間が進めば残債も減るので、違約金も減っていく。この形で組めば、撤退によってオーナーに残債だけが残る事態を防げます。

この条件は、介護事業者との契約では珍しいものではありません。ですから、この条項を飲めない事業者は、その時点で選ばなくてよいというのが私のスタンスです。事業者の財務体力そのものの見極め方は、運営事業者の決算書で見るべき3つの数字にまとめています。

では、実際に撤退が起きたらどうなるか。建物は残りますが、介護施設仕様の建物をアパートなど他の用途に転用するのは、正直に言えば現実的ではありません。しかし、次の運営事業者は、ほとんどの場合見つかります。

理由は、事業者の側の事情にあります。施設運営で最もコストがかかるのは、利用者がゼロで人件費だけが先行する開設直後の時期です。既存の施設を引き継げば、この一番重い時期を飛ばして運営を始められる。だから、建物や前の事業者によほどの問題がなければ、引き継ぎ手を探すのは難しくないのです。「撤退=終わり」ではなく、「違約金で残債を整理し、次の事業者に引き継ぐ」——この二段構えが、建て貸しのリスク管理です。

定期借地の落とし穴——期間満了と、地代の相場

定期借地にも、知っておくべき点があります。

期間満了時は、原則として事業者が建物を解体し、更地で返すことになります。その時点で収入は止まり、土地の次の使い道を改めて考えることになります。ただし、これは交渉次第で変えられます。建物を残してもらい、他の運営事業者を探して賃料を得続ける形も考えられる。契約時に「満了時にどうするか」を話し合っておくと、30年後の選択肢が広がります。

地代の相場は、筆者の実務上の目安として更地価格の年2〜3%程度です。介護・障害福祉の事業者は事業の性質上、支払える賃料に上限があるため、ロードサイド商業のような水準にはなりません。月額・坪あたりに直すと、地方郊外で200〜300円、名古屋近郊の住宅地で400〜650円、名古屋市内の住宅地で800〜1,250円程度が私の実感値です。建て貸しの賃料全体に占める土地部分の比率で言えば、概ね5〜20%。地価が高い土地ほど比率は上がりますが、上がりすぎると事業者側の収支が成り立たず、案件そのものが止まります。

「投資ゼロで安定収入」は事実ですが、その収入は建て貸しの1〜2割程度だということは、比較の前提として持っておいてください。なお、市街化調整区域の土地では、そもそも建てられる用途と方式が限られます。その場合は市街化調整区域の記事を先にご覧ください。

※地代水準はいずれも筆者の実務上の目安であり、立地・用途・契約条件により変わります。

5年ルール以後、この比較はどう変わるか

税の文脈にも触れておきます。(2026年9月時点の情報です)

令和8年度税制改正で新設された、いわゆる5年ルールは、相続開始前5年以内に「対価を伴う取引で取得・新築」した貸付用不動産を時価に近い評価とする方向で、2027年(令和9年)1月1日以後の相続・贈与から適用される予定とされています。建て貸しは新築を伴うため、この改正の影響を受けるのではないかと心配される方がいます。

ただし、長年所有している土地への新築は、経過措置により従来の評価が維持される見込みとされています。「買って評価を下げる」手法が封じられる一方、「代々持っている土地を活かす」選択肢は残る。先祖から土地を受け継いできた地主の方にとっては、建て貸しの前提は大きくは変わらない、という読み方ができます。詳細は5年ルールの解説記事をご覧ください。

なお、この改正は通達が未公表であり、細部の取扱いは確定していません。断定はできませんので、個別の税額計算・特例の適用判断は、必ず税理士にご確認ください。当センターでは、税効果を織り込んだ活用プランの設計までを担い、個別の判断は連携税理士が担当します。

業者に聞く前に、自分に聞く一つの質問

この記事の締めは、業者への質問ではありません。

「私の相続税額と、納税資金は、いくらか?」

これを地主の方ご自身が把握していないまま、建て貸しか定期借地かを決めることはできません。建設会社は建てる提案を持ってきますが、納税資金までは見ません。税理士は税額を計算しますが、土地活用の企画までは組みません。この二つをつないで初めて、「納税資金が足りているか」という分かれ目に立てます。

私自身、提案を受けていた頃、この質問を自分にしていませんでした。だから借入の抵抗感だけで判断しようとしていた。いま思えば、順番が逆だったのです。

当センターでは、まず相続税額と納税資金の試算から始めます。そのうえで、建て貸しが合うのか、定期借地でよいのか、あるいは最適解が「建てない」なのか——それをはっきりさせるのが最初の仕事です。しつこい営業は一切いたしません。かつて提案を受ける側にいた人間として、それが自分の欲しかった対応だからです。地番と現況、おおよその財産の状況が分かるものをお持ちいただければ、無料簡易診断でお答えします。


※本記事は2026年9月時点の情報に基づいています。本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の税務相談に代わるものではありません。具体的な税額計算・特例の適用判断は、必ず税理士にご相談ください。

この記事に関するQ&A

Q. 建て貸し方式と事業用定期借地方式は、どちらが相続税対策として有利ですか。

相続税の圧縮効果は建て貸しの方が明確に大きくなります。借入で建物を建てることで建物が貸家評価、土地が貸家建付地評価となり、借入が債務控除されるためです。定期借地は底地としての一定の減額のみで、筆者のモデル試算では現状との差が700万円程度にとどまりました。ただし定期借地は借入をしないという価値があり、納税資金が確保できている方には十分に合理的な選択です。有利不利は方式ではなく、納税資金の状況で決まります。

Q. 借入をして建てると、子どもに負債を残すことになりませんか。

借入は残りますが、財務の確かな事業者と長期契約を結び、賃料から無理なく返済できる企画であれば、それは返済原資のついた負債です。筆者は、納税資金が足りずに土地を切り売りする方が、子どもに残す損失としては重いと考えています。一方で、納税資金がすでに確保できており、負債を承継させたくないという方には、無理に建てることを勧めません。

Q. 建て貸しで運営事業者が撤退したら、借入だけが残りませんか。

契約設計で防ぎます。一般的には、違約金を当初の建築費相当額とし、30年かけて逓減させる条項を入れます。早期の撤退ほど違約金が大きく、借入の残債をほぼ打ち消す形です。この条件は介護事業者との契約では珍しくなく、飲めない事業者はその時点で選ばなくてよいというのが筆者のスタンスです。また、既存施設を引き継げば開設直後の人件費先行の時期を避けられるため、次の運営事業者はほとんどの場合見つかります。

Q. 事業用定期借地の地代は、どのくらい見込めますか。

筆者の実務上の目安として、更地価格の年2〜3%程度です。月額・坪あたりでは、地方郊外で200〜300円、名古屋近郊の住宅地で400〜650円、名古屋市内の住宅地で800〜1,250円程度が実感値です。建て貸しの賃料全体に対して土地部分は概ね5〜20%にあたります。投資はゼロですが、収入は建て貸しの1〜2割程度になる点を前提に比較してください。立地・用途・契約条件により変わります。

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